会計業界において、転職はキャリア形成上のターニングポイントです。「スキルアップ」「ワークライフバランスの確保」「年収アップ」等、様々な動機・背景や希望があり、毎年多くの方が転職活動をされています。一方で、残念ながら希望通りの転職にならなかった方も多いのが会計業界。今回の会計トピックスでは、あえて転職失敗事例をご紹介し、転職活動の留意点などもご案内が出来ればと思います。
小規模事務所で所長に嫌われると怖い ~実力があるのも困りもの~
【今回の失敗者】
Bさん、35歳/男性、税理士試験5科目合格
(簿記論、財務諸表論、法人税、消費税法、固定資産税)
Bさんは一般的な会計事務所で中小企業の税務顧問業務を中心に経験を積まれ、時折所長の補助で相続税の申告書類の作成補助などを対応していました。
その一方で税理士資格取得に向けて、終業後は専門学校で税法の受験対策にも取り組まれており、忙しくも充実した日々を過ごされていました。そんなBさんですが、会計事務所に勤務し始めて5年程経過した頃から、「自分でもお客様を持って独立したい」と考えるようになり、そのために何をするべきかと悩むようになりました。
そして、Bさんは独立をするために経験を高める、もしくは既に後継者候補として人材採用を行っている事務所を受ける、という2つの選択肢を探るようになります。
後継者候補の会計事務所に入社するも、 所長の態度が豹変?!
税理士試験を受験し始めて7年、遂に5科目合格を果たしたBさんは、中長期的な視点で独立することも考えていた為、転職活動の際に「後継者」を必要としている地元の小規模な税理士事務所の面接も受けました。面接の際には所長も優しく穏やかな雰囲気であり、事務所の歴史や仕事のスタンスなどにも共感する点があったため、同時期に内定が出ていた他の会計事務所の方はお断りして、Bさんはその場で内定を快諾されました。
入社が決まった会計事務所は、所長以外は、昔から在籍をしている女性職員が中心であり、他の職員はパート、また所長以外には有資格者もいなかった為、自身がしっかり活躍出来れば「後継者」として認めてもらえるのではないか…、そう思いBさんは入社を決意したのでした。
入所してから一ヶ月、任された業務にも慣れ始め、「徐々に信頼も得られてきた。」と思った矢先、所長から衝撃的な一言が発せられました。「新しい顧客も開拓してくれないと今後Bさんには給料が払えない。」それは寝耳に水といった感じで、Bさんにとっては信じられない発言でした。
「そんな話は聞いていない!どういうことですか?」と所長に説明を要求したものの、毎回Bさんへの説明はなく、時間だけが過ぎて行きました。
後日、パートの職員から聞いた話ですが、どうやら思いの他、仕事が出来るBさんが女性従業員からちやほやされているのが気に入らないことで、所長の機嫌が日に日に悪くなっていったのではないかとのこと。
Bさんは「誠実に仕事をしていれば分かり合えるはず。」と思い、当面は様子を見ることにしたのでした。
状況は徐々に悪化、所長の無理難題で残業地獄の日々が…
Bさんは所長の期待に応えなければと、会計・税務の実務はもちろんこと、営業の分野でも今まで経験のない異業種交流会やビジネスセミナー等にも積極的に参加するようになりました。
上記のようにBさんなりに新規クライアントを増やそうと努力はしましたが、なかなか成果が出ず…
一方で、所長からは仕事上での無理難題も増えていきました。最終的には、Bさんは「出ない残業代」「間に合わない仕事」に押し潰されてしまい、再度の転職を余儀なくされました。
このような失敗をしないために
このような専門業界での「入社後のミスマッチ」は本当に怖いものです。
今回のケースでは、Bさん側に特段落ち度はなかったように見受けられますが、やはりミスマッチに陥ってしまったのには理由があるようです。それは下記の2点ではないでしょうか。
①面接は一回きり、即断即決は危険
会計事務所での面接において、初回から所長が対応するケースは決して珍しくありません。
ですが、一回きりの面接でお互いの本音やスタンス、年収や今後の将来イメージなどを、完全に共有することなど無理に等しいのではないかと思います。また、後継者候補として入社するのであれば、所長の他にどのような職員がいるのかも確認をし、総合的な視点で入社するか否かを判断すべきであったのではないでしょうか。
②時には性悪説に立ってみることも必要
また、今回のような後継者候補という大事なポジションを、何故今採用をするのか?また今まで時間があったのにも関わらず何故採用できていないのか?人材は全く育っていないのか?だとすれば何故なのか?という具合に、あえて大事なポジションに応募する際には性悪説に立ってみることも大事ではないかと思います。そういった視点を持っていると面接でも変な違和感を察知することが出来るかと思います。
今回の転職失敗事例で取り上げた「後継者ポジション」に関する話は、所長税理士高齢化に伴い、全国的にも増えてくる事例ではないかと思います。もちろん後継者育成に大変熱心に取り組んでいらっしゃる所長も大勢いらっしゃるかと思いますが、そうでない先生も少なくはないと思います。
今後、後継者候補のポジションを目指そうという方にとって、少しでも参考になればと思います。
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(文/シニアコンサルタント)