アベノミクスによる公共投資の拡大や、2020年の東京オリンピック開催などに向け、建設業界の受注高が増大している。国土交通省公表の資料によると平成25年4月~平成26年3月までの受注高の伸び率は前年同期比10.1%にも達している。消費税増税の影響による受注減が予想された平成26年4月~12月までの受注高こそ前年同期比1.0%の伸び率ではあるものの、建設業界は依然として数字上は好況感に包まれている。
この好況感を建設業界の現場ではどう捉えているのか。先日、ある公共団体が実施している建設業雇用対策セミナーの講師として招かれた際に現場の声を聞いてみた。
深刻な人手不足と低い利益率
「世間一般に言われているようにアベノミクス政策以降、仕事量は劇的に増えています。しかし、受注単価が安い。仕事量の増大が資材の高騰につながり、また数年前から言われている職人不足による人件費の高騰のため、利益は殆ど出ていません。粗利は以前と変わらずに忙しさだけが増しているため、職員の残業代や経費増のために営業利益は減っています」。これがセミナーに参加した建設会社の経営幹部の言葉である。セミナーの参加対象は従業員10人~100人程度の規模の会社であり、いわゆる下請けを行っている会社ばかりであるが、他の参加者からも同じような感想が聞かれた。
このセミナー自体が中小建設会社の若年者労働力確保のため、経営改善や労務改善を促す目的で実施されたものであり、効果の測定は現在進行形である。しかし、他の公共団体が同様のセミナーを実施した結果は芳しいものではないと聞いている。近年若年労働者の建設業離れが深刻化しており、いわゆる昔から言われている3K(きつい、汚い、危険)が極端に嫌われている。建設業界の人手不足解消は一筋縄では解決できそうにない。
ゼネコンも苦しい・・・建設業界の実情
では、元請けであるゼネコンの経営状況はどうか。一昔前のように下請業者から利益を搾取しているのかといえば、決してそのような状況ではない。下請けの立場が弱いことは今も昔も変わらないが、利益に関しては元請け事業者も一定の配慮をしている。また、昔はJVを組成して工事を行うことが多かったが、現在はJVによる工事の数が減少している。これは施主がJVを組ませるのではなく、それぞれ単独で入札を行わせることにより入札業者の数を増やし、価格競争を促し、より安い単価で発注するためである。これらの要因からも、ゼネコンの利益率も軒並み悪化しているのが今の建設業界の現状である。
思い起こせば今から10年~20年前に、中堅ゼネコンの倒産が相次いだ。また倒産企業には必ずと言っていいほど粉飾決算が伴っていた。今の建設業界の状況は当時の状況を再現するおそれがあるのではないか。
不透明な資金繰り、高まる不正リスク
もともと会計に携わっているものならば周知の事実であるが、不正リスクが高い業種は建設業界・IT業界といわれている。これは、個別原価計算により原価の操作が簡単であること、工事進行基準という会計処理の見積もりの要素が高いこと、商品があらゆるところに点在しているため網羅的な可視化が難しいこと、また業種独自の取引慣習が会計処理の複雑性を増しているためである。つまり経営者は自社の業績が悪くなるとこれらの特性を生かして、安易に在庫や売上の操作が可能であり、その操作は会計監査人など業界の専門的知識に乏しい外部の人間からは見破りにくい。
ここ数年はゼネコンの大型粉飾事件は影を潜めているが、2020年までにピークを迎えることが予想される建設ラッシュを控え、建設業界の生き残り合戦はもう始まっている。不正リスク対応基準が導入されている今、われわれ会計に携わる人間も建設業界の不正リスクになお一層の注意を払いたいものである。
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(文/公認会計士 三由 哲也)