政府は3日、JA全中(全国農業協同組合中央会)が持つ地域農協に対する監査権をなくすなどとした農協法改正案を閣議決定しました。JA全中自体も、2019年9月までに一般社団法人に変わります。
地域農協を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)の指導・監査権限を全てなくした場合、地域農協の監査は、これまでの農業協同組合監査士(略称:農協監査士)による全中監査から、公認会計士による、他の金融機関と同じ監査のしくみになる予定です。
特に貯金量が200億円以上の農協には、信用金庫・信用組合等と同様、公認会計士による会計監査が義務づけられるため、今後は農協活動の透明性が高まることが期待されています。 では、これまで農協監査を行っていた農協監査士とは何か、そして全中監査廃止後の農協監査士のゆくえについて見てみたいと思います。
農協監査士試験とその概要
農協監査士は、農業協同組合法第73条の38により定められた資格で、全中が組合の監査を実施するために必要な資格です。現在、JA全国監査機構(JAグループ内の独立した機関)の人員は560人でうち公認会計士は30人、農協監査士は各都道府県中央会からの出向者を中心に340人在籍しています。農協監査はJA全国監査機構により行われるため、形式上は外部監査となっています。
農協監査士は、5科目の学科試験(監査論・会計学・簿記・農協制度「農協法・農業協同組合論」・関係法「法人税法・民法」)に合格し、1年間の監査実務経験に加えて、所定の講習や論文試験、2年間の組合指導等の実務経験の条件を満たした後に選任されます。
2014年度の農協監査士試験は、受験者522人のうち101人が合格し、その合格率は19.3%と、公認会計士の同年度10.1%(受験者数10,870人、合格者数1,102人)より高めです。農協監査士の受験者は、その職務範囲の特殊性から、多くは農協関係者が占めています。
農協改革の結果、公認会計士への影響とは
2月9日に自民党が了承した、農協改革の法制度の骨格(一部抜粋・要約)によれば、
「全中は内部組織の全国監査機構を外出しし、公認会計士法に基づく監査法人を新設。農協は今後、新設された監査法人、または他の監査法人の監査を受ける」
「現在監査業務を担当している農協監査士について、当該監査法人等における農協に対する監査業務に従事できるように配慮するとともに、公認会計士試験に合格した場合に円滑に公認会計士資格を取得できるように運用上配慮する」
とあります。
農協改革後も、農協監査士の資格は残し、業務監査については農協監査士が担うことは可能ですが、会計監査の責任者は公認会計士のみしか行えなくなります。
また、受験の必要はあるものの、農協監査士が公認会計士になる可能性もあるということですが、簡単な試験でないだけに、どれくらいの農協監査士が将来公認会計士になれるか予測し、追加で公認会計士の確保がどれくらい必要かを見込むことが課題となってくるでしょう。
そして、農協監査士がどれくらい農協の会計監査に関与できるか不明瞭のため、農協監査士自体が今後どれくらい必要なのかもはっきりしていません。
まだまだ課題が残る今回の農協改革ですが、たんなる「組織の形態変更」ではなく、真の透明性が担保できることを期待したいと思います。
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