昨年9月に召集された臨時国会で、安倍晋三総理大臣は所信表明演説にて「環太平洋経済連携協定(TPP)の早期発効を大きなチャンスとして、1兆円目標(農林水産物輸出)の早期達成を目指します」と、TPPあっての農政改革の推進をアピールしました。
さらに「農家の所得を増やすため、生産から加工・流通まであらゆる面での構造改革を進め、肥料や飼料を1円でも安く仕入れ、農産物を1円でも高く買ってもらうための後押しをする。年内を目途に改革プログラムを取りまとめる」とし、農業の構造改革も併せて進める考えを示しました。TPP承認の影響はどれほどあり、懸念点はあるのでしょうか?
TPPのこれまでと承認後の影響
日本は、2013年7月に環太平洋経済連携協定(TPP)で、アベノミクス政策の一環として正式に交渉に参加しました。そして2015年10月、交渉参加から2年以上を経て大筋合意となりました。以降、約5年をめどに段階的に関税が撤廃されることが決まりました。
TPPは世界のGDPの4割を占める巨大経済圏になるといわれ、貿易のルールのスタンダードとなることが期待されています。
TPPの国会承認に向けて衆議院の特別委員会で採決され、承認案・関連法案の参院審議が始まりました。対して民進党や共産党など野党4党は、議案を廃案に追い込むことを目指して協力しています。また、アメリカではTPPからの離脱を宣言していたドナルド・トランプ氏が大統領選で勝利し、先行きは不透明さを増しています。
2015年12月24 日に内閣官房TPP政府対策本部が発表した「TPP協定の経済効果分析」によれば、TPPを締結するとGDPが約14兆円増、農業をはじめとする損失は1,300億〜2,100億円程度で、日本はTPP締結により丸儲けできると打ち出しました。
それまで与党の自民党は、TPP承認について当初は「断固反対」という立場を取っていましたが、2013年の試算からGDPにして4倍増、農業への負担は20分の1という大幅な変更をすることで、その立場を翻しています。
TPP承認の懸念点
東京大学大学院教授・鈴木宣弘氏の著書「悪夢の食卓−TPP批准・農協解体がもたらす未来」によれば、今回の政府の試算は、「TPP承認による国産農産物の価格が低下しても生産性を上げる」「輸出入拡大で生産性がさらに高まり、実質賃金も上昇して貿易手続の簡素化から取引コストも低下する」といった間接効果を織り込んでいるため、2013年の試算から大きく変更となったと指摘しています。
また、経済効果以外にも食の安全が懸念されています。例えば、牛海綿状脳症(BSE)の国内対策に関して、現在実施されている生後48カ月超の国産牛のBSE検査を今後は原則廃止する方針です。この方針の背景には、アメリカの圧力があったとみられています。アメリカ通商代表部(USTR)は、外国貿易障壁報告書で「日本がいまだにBSE検査を行っているのは問題であり、アメリカが輸出する際の障害となっている」と、圧力をかけてきたためといわれています。この他にも、遺伝子組み換え食品・残留農薬などの規制緩和により、食に対する安全行政は後退していくのではという懸念もみられます。
政府は具体的なメリットの例として、輸出税の新設・維持の禁止、金融サービスにおける国家間の協議メカニズムの導入、医薬品の知的財産保護など広範囲にわたって挙げています。消費者にとっては、海外から美味しい高品質な食品がより安く手に入ることはありがたいですが、食の安全が確保されない可能性がある点については、有益なTPP承認であるのか、あらためて考えた上で協議をすすめてほしいものです。
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