2017年7月20日、金融庁が監査法人のローテーション制度を検討すると発表しました。
この監査法人のローテーション制度は、海外では既に導入されているのですが、今のところ目立ったトラブルは見受けられないとのこと。海外の事例をそのまま日本に当てはめて上手く回るのかは分かりませんが、監査業界には少なからず大きなインパクトとなるのではないでしょうか。
因みにこの流れで検討が進むと、監査クライアントは定期的に担当監査法人を変更する必要が出てきます。この監査法人のローテーション制度、実際に導入された場合に考えられる影響をまとめてみました。
制度のメリットは?
まず、当制度を導入した場合、監査法人とクライアントの間に“癒着関係が生じるリスク”を軽減させる効果が見込めるかもしれません。
金融庁によると、2016 年度の東証株価指数(TOPIX)上位100社のうち、2007年度時点で存在していた96社に調査をしたところ、直近10年間で監査法人を交代した企業は、わずか5社にとどまったそうです。
このことから、非常に多くの上場企業が、長年同じ監査法人を利用していることが予測出来ます。更には、コンプライアンスやガバナンスの強化が叫ばれる現在では世間の目も厳しくなっています。
故に、企業が不正を働かないように監査法人も厳格な監査を実施していく必要がありますので、このローテーション制度は正しい監査を敢行する上でも後押しの要素になるのではないでしょうか。
監査法人にメリットはあるのか
当制度の導入は、長い目で見れば監査法人業界の活性化に繋がるものだと考えられます。
長年の関係性がある監査法人とクライアントでは、互いの内情がある程度分かるため、暗黙知に支えられて、円滑に業務が進行する可能性があるという点はメリットかもしれません。しかし、いざ問題が生じた際に「監査法人が不正会計を見抜けなかった」「監査法人とクライアントの間に暗黙のルールがあり、以前からの慣習を打ちきれなかった」など、問題の原因が監査法人側にあるような世論が強まると、結果として監査法人業界全体に世の中が不信感を抱くことになります。これは監査法人の“業界”にとって完全にマイナスです。この課題を解決するためにも、ローテーション制度は、監査法人が自らの身を守る上でも有用な制度なのかもしれません。
その反面、短期的な視点で見たときには監査法人側の負担は大きいでしょう。特に、大型クライアントを引き受ける場合、巨大企業の全貌、クライアントのビジネスや方向性、複雑な会計処理への理解、そしてクライアントとの関係構築など、乗り越えるべき壁は大きい印象。また、クライアントが定期的に流動することを考えると、どのタスクにどのスタッフをアサインするかという人繰りの面でも相当な負担が出てくることでしょう。
クライアントの反応はいかに
一方で、ローテーション制度が実現することで負担に感じるのは監査法人だけではありません。むしろクライアント側からも反発は生じるでしょう。特に経理部や財務部など監査対応をしている部門からは「また最初から同じ説明をするのか…」「自社のことを分かってくれている監査法人のほうが楽なのに…」と監査法人が変わることで生じる手間について不満を募らせる会社も出てくることでしょう。
また「以前の監査法人ではそんな質問や指摘はなかった」「何故ここまで細かく聞いてくるのだろうか」と以前とのギャップにフラストレーションを募らせる担当者も出てくると思います。
ただ、こういった変化が監査のあり方や監査法人との付き合い方について、再検討するきかっけになる可能性も大いにあります。今やグローバル展開をする日本企業は数多くあり、各社が世界で通用する経営管理体制を目指して努力をしていますが、ビジネスエリアの拡大、複雑化する資本関係、コンプライアンスの強化など、取り組むべき事象・対象が広がりすぎている感もあります。
このような流れの中で、徐々に「旧来の管理体制では限界がある」と気づき始めている企業も出てきていますので、今後、監査法人は最新の知見や手法を駆使し、クライアントを正しい方向に導いていくことが求められるでしょう。監査法人のローテーション制度は、そのような流れを後押しする特効薬になるかも知れません。
≪参照≫
金融庁「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」
http://www.fsa.go.jp/news/29/sonota/20170712_auditfirmrotation/02.pdf
(参照:2017年7月31日)
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(文/シニアコンサルタント)